オーストリアの博士課程でよかったこと

ぼちぼち本年度中には終わりそうなので今までオーストリアの博士課程過ごしてよかったと思うことを簡潔にまとめたいと思う。
ヨーロッパ内では制度似通っている(日本とは著しく異なるという意味で)と思うのでオーストリアの部分をヨーロッパと置き換えてもらっても構わない。だが、国によって細かな違いはあるしどちらかというと分野にも依存するテーマなのでオーストリア国内であっても一般化するのもおすすめしない。これをもってしてオーストリアの博士課程>日本の博士課程というつもりも毛頭ない。事実に関して異なることや情報が古いものがあれば指摘があると嬉しい。意見に対する反論があればもっと嬉しい。

前提としておくべき自分の情報を以下に開示する(詳しくはプロフィールに書いてある)。共通項が多ければ多いほど参考になるかもしれない

・学歴
学部、修士までは日本の国公立大学。理工学部(いわゆる電電系)

・海外経験
博士課程入学までの海外経験は中・長期インターン2回。
(学内の海外インターン制度を利用してタイの研究所に二か月、ヴルカヌスインヨーロッパプログラムを利用して大学院休学しながらヨーロッパに一年。)
それ以外では語学留学・交換留学はおろか海外旅行も無し。

・言語力
入学時点で英語はまぁまぁ、ドイツ語はそこそこ話せたレベル。客観的な指標としてはTOEICとゲーテくらいしかないがそれぞれ875点とB2。修論は墺企業との共同研究だったので英語で書いた。

・当時の進路
入学前当時迷っていた進路は海外博士課程か海外新卒就職(インターン後のジョブオファー有)。別に、日本で働くことに興味がなかったわけじゃないけど必要もなかったため日本の就活は経験なし。これに関してはヴルカヌス様様である。

以下よかったこと

1.経済的・社会的に自立することができる

やはりこれが一番大きい。

こちらでの博士課程は大学から雇用されている限りは学費(EU外国籍の場合、1セメスターあたり700ユーロ)が全免除の上、大学とフルタイム(基本週40時間。週30時間の場合もある)雇用契約を結ぶのでこちらでは明確に社会人(そもそもそういう言い方しないが)という括りである。社会保険料・年金も給与から天引きされる。オーストリアの場合は半年間働いた時点でArbeitszeugnis(労働証明)が発行できるので大学でフルタイムで働いていたという証明も容易である。給料はPhD(博士課程)の場合は週40時間フルタイムで年額42,000ユーロで求人を出しているところが多い。オーストリアの場合はKarriere.atとかGlassdoorによく求人が載っている。大学のウェブサイトにもよく載っている(例としてウィーン工科大学)。手取りはBruttorechnerで計算できるが、週40時間であればだいたい月29万+年二か月ボーナスである。物価は日本と比較してもそこまで高くはないし自炊すれば食費はかなり抑えられるので貯金もそこそこできる。問題点があるとすれば、オーストリアは社会保障協定を日本と結んでいないため日本とオーストリアの両方に年金を納めなければならないこと。日本の方は住民票を抜いていれば国民年金は任意となり、払っても年20万程度なのでそこまで負担にはならなかったが二重に払うことによる無駄払い感は拭えない。

2.ワークライフバランス
これはヨーロッパ企業でよくみられることだが、基本的に残業なし(残業代もなし)、有給全消化義務、毎週プレミアムフライデーである。バカンスシーズンは2-3週間の休暇を助教・教授はおろかPhD・ポスドクも取ることが推奨される、というか取らないと有給を全消化できずに雇用契約更新のさいに人事行くと怒られるハメとなる。まぁ勤務時間を厳密に管理されるような大手企業とは異なり、大学は厳しくチェックされているわけではないので別にバレなければ好きなだけ大学にいることはできるが夜の8時以降は大学から人の気配が消える。週末も誰もいない。実験系が多い工学部ですらこうである。日本では泊まり込みとか、自分も午前3時とか4時まで研究室に残ることや土日出研がざらだったのでこっちに来てから数か月は困惑もあったが慣れた。

まったくの逆のケースだが、労働時間がそこまで厳しく管理されてないということは別にサボっていてもフルタイム分の給料がちゃんと出る。よく、給料をもらっている分業績が出てないとすぐにクビになるみたいなことを目にするがそんなことはまったくない。著しくパフォーマンスが悪くとも実働時間が実質半分くらいでももらえる給料は同じである。ここはPhD間でも差が激しい。優秀な人ほどちゃちゃっと業績積んで出ていく。

3.仕事環境が英語・ドイツ語

自分は外国語(英語・ドイツ語)のスキルを20代のうちにもっとブラッシュアップしたい気持ちが強かったので仕事環境が英語・ドイツ語オンリーだったのは好都合であった。英語圏以外の海外大学を目指すのであればたとえ英語が通じるとしても現地語を覚えておくことは快適な生活を送るうえではほぼマストといってよい。PhDやポスドク、教員陣はもちろん英語が問題なく話せる。しかしながら、とくに工学部で実験系のところはラボのテクニシャンの人たちにもよくお世話になると思うが、英語が通じなかったり話したがらないケースが多々ある。そういうときに現地語が話せないと事がスムーズに運ばない。あとはたとえ教授相手であってもコミュニケーションを円滑に、良い人間関係を築くためには現地語が一番良い。けっきょく大半のヨーロッパの人間にとっても英語は外国語なのである。

4.企業への転職が容易
これは工学部に限った話かもしれないが、博士課程を出た後はアカデミアに残るよりは企業へ移る人の方が多い。アカポスに限りがあるのは日本だけでなくヨーロッパでも同様であるし、なにより給料は企業の方がよいのが通例である。日本のような新卒一括採用は存在しない。求人のジョブディスクリプションの要件に合致したところにCVを出して面接→採用の流れか、あるいは自分などは共同研究先のR&Dトップと直接面接→人事との意思確認のみでCVはすべて終わったあとについでみたいな感じで提出した。オーストリアもここら辺はコネ社会である。
博士課程に行っていたことがマイナスとはならないどころか明確に職務経験年数に加算された状態で就活に臨むことができるのはまったくもってアドである。
欧州博士課程→日本企業ルートは未知なのでもしかしたら日系企業的にはこちらの博士課程は実務経験年数として見なされないかもしれない。そんなことがあればこちらからお祈りメールを送る他ないだろう。

以上、日本の博士課程を経験したことがない以上は比較しようもないしするつもりも無いわけだが、修士までは日本にいた自分の中での常識が刷新された部分を中心に挙げてみた。これも工学部特有かもしれないが企業と共同でやっているところがほとんどなので日本の大学の研究室のような象牙の塔みたいな雰囲気は全くなく、むしろ会社のそれに近い。こちらの企業R&Dと大学の研究室は共通点が多い。
ちなみにこんな環境でも病むひとはきっちり病むし逃げる人もいる。きっかけは(主に教授との)人間関係だったり、研究が進まないことだったり過労だったり、大学院生のメンタルヘルス問題はけっこう世界的に有名なテーマである。自分は会社でも大学でも人間関係に恵まれたおかげでチョイ病み期とか(全く別の要因で)入院とかもあったけどなんとか博士課程のゴールが見えるところまで来れた。やはり人間関係が一番大事である。より良いものを築くためにはこちらの文化になじむこと(迎合するわけではない。長いものに巻かれるタイプはあまり信頼も信用もされない)、現地語をたとえ話せなくとも話す努力くらいはすることである。

おわり。
オーストリアの博士課程でよくなかったことがあればまた別の記事にまとめるかも。そしてたぶん一年後くらいにはオーストリアの企業でよかったことみたいな記事を書くと思う。

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