先週、大学職員用の名刺を作ってもらいました。
やはり研究プロジェクトを通して外部の企業の人と顔を合わせる機会が多いので必要かな、と。
ちなみに表はドイツ語で裏は英語表記です。
大学の所属研究グループ、研究所の住所や電話番号以外には肩書き。PhD Studentの場合はUniversity Project Assistant。ウチのPhD Studentは全員そういうポジションで採用されているので。
特筆すべきは学位。自分の場合は修士(工学)なのでM. Eng.と表記されています。この学位についてアカデミアの本場ならではの面白い話がいくつかあるので今回はそれについて。
オーストリアやドイツ、イギリスなどヨーロッパの多くの国では学位がある一定の価値を持っています。それは日常生活の中でも実感できます。
例えばウィーンやグラーツだとしばしば家やマンションの表札に名前と一緒に学位を併記しているものをよく見かけます。日本だと表札にいちいち博士(◯○)と記載されていることはほとんどないと思います。
初めはPrivate Doktorのための表札だと思っていましたが、よくよく見てるとDipl.-Ing(工学修士と同等)だったりDr.techn.(工学博士)だったりPh.D.だったり、みんな自分の称号のアピールに余念がありません。
数年後、首尾よく博士号が取れたとして私の場合はDr.techn.になりますが表札に堂々と記載する気は特にありません。それにしてもDr.techn. M. Eng.と続くのはなんか見栄えが。。。Dipl.-Ingが欲しい人生だった。
他にも有名な教授レベルだと学位の他にも学会表彰(フェロー)が併記されていることがあります。
ウチの研究グループの教授の名刺を見ると
Univ.-Prof Dipl.-Ing. Dr.techn. MBA, FIEEE, FIET
まで書いてあってちょっとした水戸黄門の印籠なみの迫力があります。そんな教授はほとんど毎日出張で週一で顔を合わせれば良い方です。
日本でも博士号取得者には敬称としてDr.を用いることくらいは知ってる人が多いと思います。しかし、こちらは例えば公的書類の記入において博士号に限らず修士号、場合によっては学士号を併記することを任意で求められる場面があります。例えば住民登録や労働契約書などです。
中でも面白かったのは以下のようなオーストリアでインターネット回線を契約する際にも所持する学位を選択することができたことです。
ここらへんは基本的に自己申告で特に確認も取られません。
しかし大学や研究所など、学位が採用の要件に直結するような場所では例えば外国で取得した学位の証明(Verification)が必要になります。The National Academic Recognition Information Centreで証明することができるらしいですが、大学に全部やってもらったので詳しいプロセスはよくわかりません。
実際、これが原因で私の雇用は2週間ほど遅れてしまいました。
学位を巡っては諸外国では学位の不当な売買(いわゆるディプロマミル)が行われていたり東欧では10年ほど前、実に学生の2ー3割近くが入学要件を満たすために非合法な手段を取っていたことがわかっています。(ソース)
日本でも時たま、芸能人や政治家などの経歴詐称が話題になります。
それは良くないことだと思います。やめましょう。
ウチの場合は大学の研究チームの紹介ページや名刺などではこういった経歴詐称を防ぐために人事部に登録されている学位以外は記載できないことになっています。自分の場合、B. Eng.も追加しようと思えばできますが、まぁしません。
学位の価値とは、厳しい卒業要件を満たしてきちんと大学で学問を修めた前提をもってして初めて認められるものなので、人生の夏休みだとか言われている今の日本の大学システムだとこの価値観が浸透するのはまだまだ先でしょう。(実際の日本の理工系の学生の勉強量はヨーロッパの学生と対して差がないと思っていますが)
2000年代初頭の無責任な大学院重点化政策によって生まれた高学歴ワーキングプアやオーバードクター、ポスドク問題、高等教育無償化制度で大学院生が対象外にされた話など日本のアカデミアの現状に関してはいろいろと思うところありですが、それはまたの機会で。
コメント